男湯の浴室正面の壁面に広がる富士山を主体とした図柄は、日本の風呂文化の象徴でもあった。「銭湯」と聞くと富士山の壁絵を思い浮かべる人は少なくはないと思われる。しかし正確には東日本、特に関東地方の銭湯に特有のものであり西日本の銭湯では浴槽が浴室の中央に設計されることが多いこともあり、壁面にペンキ絵はほとんど無い。
富士山のペンキ絵は、東京神田猿楽町にあった「キカイ湯」が発祥といわれる。大正元年(1912年)に「キカイ湯」の主人が画家の川越広四郎に壁画を依頼したのが始めで、これが評判となりこれに倣う銭湯が東京や東日本を中心に続出し銭湯といえばペンキ絵という観念を生じるに至った。女湯の浴室のペンキ絵は富士山でなく、幼児や子供が喜ぶ汽車や自動車が描かれることが多かった。平成13年(2001年)の時点でペンキ絵の絵師は関東で5名を残すのみとなり後継者の存続が危ぶまれている。(2009年10月現在は2名(丸山清人、中島盛夫)。)
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ちなみに平成18年(2006年)5月に閉館した交通博物館のパノラマ模型運転コーナーの背景壁絵のリニューアルの際(平成14年(2002年))にも、銭湯のペンキ絵の絵師によって富士山などを主体とした山々が連なるペンキ絵が描かれた。
大型タイルに美しく豪華な上絵を描き、焼成したものをタイル絵という。全国的にみられるタイル絵は、伝統の九谷焼で戦前より石川県金沢の「鈴栄堂」という窯元が全国に広めたもの。壁面などの広い面積を装飾するため複数枚の大型タイルに柄続きの総柄に仕上げる。白地の平滑な地に描かれる図柄は主に「宝船」や「鯉の瀧昇り」、「七福神」などおめでたく華美なものがほとんどを占め美術工芸品並みの技巧を凝らし創られたタイルもある。高級品でもあったため、設備資金にゆとりがあり集客の多い市街地の銭湯に多くみられた。